God・Speed・You!!(ギターウルフ)

メジャーデビューシングル『オールナイトでぶっとばせ!!』のノリが手伝ってか、この方々が我々一般市民の目に触れるようになった頃の世間の評価は、どちらかと言うとキワモノ、企画モノ的だったと思います。

その頃から実にどれほどの年月が経ったのでしょうか。そのパブリックイメージは実は今も大きく変化していないのかもしれませんが、その活動の軌跡には一貫して躊躇が微塵も感じられないことに感嘆させられます。


2回目のフジロックは、苗場で行われている現在以上に富士から遠く、実は東京の豊洲で開催されたのですが、そこは、ステージから視線を脇に逸らせば内海を挟んで東京タワーがくっきりと見えるような場所でした。そんな会場でセイジ氏が「東京タワーが嵐の予感」と観客をアジる名曲『カミナリワン』が演奏された時間。現在のピースフルなフジロックでは恐らく現出されないであろう不敵な空気が真昼間にも関わらず充満しておりました。

ギターウルフアメリカでのライブの映像をテレビで観たことがあるのですが、客が微動だにしてませんでした。放映した番組*1のMCは微妙な空気を読んで微妙なリアクションをしてましたが、米国のオーディエンスは自分に正直で、Performanceに不満があるとすぐブーイング飛ばしたり、帰っちゃったりするものだと聞いたことがあります。実際にはそのどちらとも違うリアクション。あれはドン引きしていたのやら、圧倒され凍りついていたのやら。

一時代に比べれば日本のミュージシャンの海外進出も華やかなりし昨今。とは言え、この方々のツアー先とは例えばブラジルだったりもするので、もう端から土俵が違いすぎます。ステージから客を引っ張り上げてギター*2をヒョイと渡して、合図と共に演奏させるっていうガチンコパフォーマンスは南米でも大いにウケたそうです。

日本語が通じないんじゃ、あの歌詞の雰囲気が伝わらないのでは…という心配は実は無用です。実際に何度かライブを観ましたけど、聴く側が日本人であってもそれが断片的に日本語だと判ればマシ、なぐらいのコンディションですから。実際にリリースされているギターウルフへのトリビュートアルバムでも大半の海外バンドは英語で歌っているそうです。もはや清志郎The Monkeesの唄に日本語の詩を付けるのと同レベルか・・・と、やけくそに過大評価もしたくなるような放し飼い状態です。


「最近ライブやりすぎてギターが上手くなってきちゃって困ってる」


というようなギターウルフ・セイジ氏の発言には納得かつ痺れさせられましたが、ギターのチューニングだけにはもうちょっと気を遣っても良いのではないかというのが私からの唯一のお願いです。


さて、そんなギターウルフの名曲を収録した本シングル。本作タイトルトラックと同名異曲を氣志團の皆さんもリリースしておりますが、この曲に関してはギターウルフの完勝。タイトル通り性急な演奏とセイジ氏の咆哮に音のローファイさ加減も相まって、場合によっては聞けたもんではなかったのでしょうが、果たしてその総和は奇跡的に快適です。エンジニアの方(どなたか存じ上げませんが)のお仕事の勝利とも言えるかもしれません。2曲目の『サダデイキッヅ』は、実はカバー曲だという事実に驚愕させられるほどにギターウルフの曲になっており、本盤の裏番長的存在であると断言します。1曲目もかなり好きですが、2曲目に★★★★★贈呈*3


なお、ベース担当のビリー氏急逝後の加入メンバーが決まったそうです。島根出身のUG(ユージ)19歳とのこと。セイジ氏が選んだ同郷の若者のパフォーマンスがどんなものなのか。楽しみです。


※追記:
昨今TVで放映されている日立製作所のコマーシャル。黒澤明の仕事風景(あれは『乱』の撮影ですかね)を背景に勇ましい音楽を鳴らしつつ「ものづくりのHITACHI」をアピールするナレーションが流れるといった内容のものですが、驚くことなかれ、ナレーションを担当しているのがギターウルフのセイジ氏だそうです。「マネーゲームはいつだって虚しい」だとか「えらそうな批評だけでは、何も生まれない」だとかいう謳い文句そのもののセンスや是非は別として、それらを誰に喋らせるでもなく正に国産の誉れ足るセイジ氏に喋らせた日立製作所(というより広告代理店)のお仕事は見上げたもんだと思います。それにしても、意外に様になっているということと、よく彼が引き受けたな、という2つの驚きを禁じ得ません。かつて東京ベイエリア周辺のビル群を実際に「ものづくり」していたというセイジ氏ですから、日立製作所のスピリットに多少のシンパシーを感じた、ということも無きにしもあらず、かもしれません。


God・Speed・You!!

God・Speed・You!!

*1:NHK-BSの「真夜中の王国」だった。

*2:一貫してSG。それもEpiphoneの安い奴。

*3:本稿がもともと掲載されたmixiのレビューにおける採点制度。