Capture 419(ペトロールズ)
更新が久しぶり過ぎてブログの編集が覚束ないところまで来てしまいました。
考えてもみれば前回の投稿は昨年暮れ。春も夏もスッ飛ばしてしまったのですから、宜なる哉、であります。
2011年末には「なんとコレまでに更新たった4回」と自嘲いたしましたが、2012年も恐ろしいことに残り2ヶ月余り。此処は腹を決めて、いつもはtwitterのTLに自堕落に垂れ流しておしまいにしてる心の凹凸を何とかとりまとめ、卑しくも開陳させて頂きましょう。
さて、ともかく2012年も残り僅かとなったわけですが、まだまだ一波乱二波乱あるかもしれません。何せ、あのペトロールズによる久しぶりのスタジオ録音盤のリリースが待っているのですから(11月7日リリース)。
その名も"Problems"と銘打たれた当作。
色取り取りの音源・生演奏で時に煙に巻き、時に戸惑わせながらも、確かに聴衆を魅了し続けてきたペトロールズが「この作品は問題で溢れかえっている」とまで自認する*1作品であります。
そんな作品を世に出すからには、その先のペトロールズはその前のペトロールズでは無いのかもしれません*2。
ならば、その"Problems"リリースを前にした今だからこそ、前作"Capture 419"を自分の心がどう受け止めたかを記録しておこうと思い立った。そんな次第です。
本作"Capture 419"は、その名から窺い知れる通り、2012年4月19日に執り行われた演奏のライブ音源が素材となった作品です。
楽曲のクオリティの高さと果敢な演奏は相変わらず。うるさ型も思わず唸るエクセレントな作品であることに間違いはないと思いますが、それでいて多少のcontroversyを内包しているところがまた興味深いところです。
本作がユニークなのは「トッピング*3」が為されていることです。「トッピング」という言葉を用いた理由が照れ隠しなのか何なのかは定かではありませんが、要するにコーラスがダビング(差し替え)されているのです。
言ってしまえば「外しすぎたコーラス」を流石にそのままは出せなかった、って事情でしか無い思うのですが、これは自他共に認めるライブバンドであるペトロールズとすれば忸怩たる思いが少なからず在ったでしょう。
結果としてコーラスは理想にほぼ近い形でまとまっており、複雑なアレンジも卒無く活かされています。一方で、自分でハードルを上げて退路を断ってしまった結果、いざ本番(生演奏)で、本作を聴いてからやって来た聴衆をガッカリさせるようなリスクも抱え込むことになってしまいます。
改めて通してアルバムを聞いてみると、本作には面妖なところが他にもかなりあることに気付きます。
ライブ演奏の臨場感を出す為に場の音を拾うアンビエンス・マイクの音が大胆にカットされている局面があったかと思えば、演奏のミスが思い切りそのままに収録されている*4局面がある。
名曲"インサイダー"において、分厚いエフェクトに包まれた助走を経て「いざ!」という瞬間に一切のエフェクトが脱ぎ捨てられたままに長尺ギターソロが展開される様などは正にライブ演奏ならではのスリルです*5。
一方、初めて作品として音源に収録された"ELF"においてはドラムスを始めとして音の雰囲気が他の楽曲と明らかに違う様に感じられます。敢えて統一感を重視しないスタジオ音源的なミックスもまた為されているのです。
そういった感想が折り重なってくると、本作、ライブ盤であることの必然性が良くも悪くも薄い気がします。他ならぬペトロールズ自身が本作について「従来のライヴ版を逸脱したライヴコンセプトアルバム」と自称しているのは、ひょっとするとそこを意識してのことかもしれません。
敢えて厳しい表現をすれば、多少の化粧直しを必要とするなら、何度でも直せるスタジオ盤をきちんと作ればイイじゃん、と感じたのは確かです。"Capture 419"と言うよりは、むしろこっちが"Problems"じゃん、と。
ただ、そんなこんなと周りくどい感想があれこれと頭の中を駆け巡っている間も本作を聴き続け、もう何週も何周も聴き込んだ頃に結局残っているのは、そこにパッケージされている音そのものへの印象でしかありませんでした。
あくまでも素晴らしい楽曲と素晴らしい演奏であることには変わりないので、聴けば聴くほどに本作がスタジオ音源のような印象を抱くようになりました。本作のベースがライブ音源だと実感させるのは、珠に聴こえる観客の歓声とごくごく珠に聴こえる演奏のミスの部分だけですね。
そもそも本作は音源の収録日の翌月には発表された作品。「録って、なる早で出し」だったことを考えると、異常なクオリティであります。
今更に気づくのは、Amazon.co.jpで30万円を超える異常なプレミアムが付けられるなど今や伝説となっているライブアルバム"Music Found by HDR-HC3"ですら*6、この"Capture 419"を聴いてしまうと其の魅力が色褪せるように自分が感じていることです。
それは取りも直さず、ペトロールズがバンドとして成長しているということに他なりません。そのことを確かに実感できたのが本作"Capture 419"だったと今は受け止めています。
ひとまずは本作"Capture 419"を聴き、その旨味に舌鼓を打ちましょう。その上で更に新作"Problems"を更能するのが、全てに飽いた大人の贅沢三昧ってやつだと思うのです。
*1:出典:ペトロールズ ウェブサイト http://www.petrolz.jp/
*2:思えば私は、ペトロールズの旧作についてレビューした際にも「彼らのライブ演奏を聴いてしまったがばかりに、自分の脳に張り付いたあの激烈なライブ演奏の印象が薄まってしまうのが嫌で本作から遠ざかってしまった」と同じようなことを書いている。
*3:ライナーノーツにそう書いてある(笑)。
*4:QueenだってZeppだって古い時代からライブ音源をこれでもかと修正してきた事を考えると、音楽編集技術が著しく発展した今日、簡単に直せそうなのに。聴いてて「此処は直さないのか!」と衝撃を受けた。
*5:そのギターソロのスリリングなこと、突然に戦場に迷いこんでしまった泥酔老人のようである。後日『ギター・マガジン』誌におけるギタリスト長岡亮介氏インタビューを読んだところ、実はあの時、彼がエフェクターを踏み残っていた、という衝撃の事実を知った。彼は酔拳の達人だったのだ。