ZOO TV Tour: Live from Sydney(U2)
言ってしまえば、"Zooropa"がかなり好きである、という個人的なバイアスを含んでのことではありますが、本作が彼らのライブ作品の中でベストだと個人的には思っています。
今になって考えてみれば、それまでは熱血漢の優等生だった奴が一生懸命頭をひねってクールぶっているような様はややもするとイタいわけですが、要するにバンドの「2学期デビュー」というような奴だったのかなと思います。
当時の私は正真正銘のガキだったのでそんな事情もつゆ知らず。曲の途中にヴォーカリストが客席から引っ張り上げた女の子と踊りながらシャンパンを開けたそのタイミングにバンドが合わせて転調する、というような憎い演出(≒クサイ演出)に無防備に感激したりもしたものでした。
そんな当時の私でも正直なところ「デブに革パンは辛いな…」という第一印象を持ったところ、Bono本人も「肥満には悩まされる」と語っていたりで笑ったわけですが*1、諸々のコスチュームプレイも含めて、ともかく精神的にも物質的にも徹底的なお道化っぷりが楽しめます。
- MTVのレポーターに「衛星貸してよ」と頼む。
- 画面のLou Reedとデュエットする。
- 自分の顔を印刷した紙幣をばら撒く。
- ステージから当時のアメリカ大統領に電話をかける*2。
- ステージからタクシー会社にイタズラ電話をかける。
- ステージから電話でピザを2万枚頼む。
- 日本公演で電話をかけたのが曙でみんなガッカリする。
等等・・・とにかくギミックだらけのツアーだったようです。
「キッチュに逃げるのは卑怯だ」とイチャモンを付けることも勿論可能だとは思いますが、「スタジアムロックバンドのライブツアーなんぞ所詮見世物」と割り切って突っ走った先駆者として彼らを讃えることもまた可能だと思います。
いまになって見ると、一部の舞台装飾や演出がダサいのは否めません。
が、
考えてみれば本作収録当時、時は1993年。
日経トレンディ誌の「ヒット商品アーカイブ」の栄えある1位は「Jリーグ」。「ポケベルが鳴らなくて」なんて曲が売れてた頃です*3。
巨大なハコの文字通り全体をきちんと装置化しているという意味では、現在の、何者だって(彼ら自身でさえ)、当時の彼らほどに上手くはできていない、と思います。
ファンクラブ会員にのみ入手ができる(プレゼントされるらしい)本作のCD作品が「実はけっこう本格的に欲しい」ということが何よりも雄弁に本作の音楽的底力を物語って居る気がしてなりません*4。
- アーティスト: U2
- 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
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*1:John Lydon大先生に至っては「世界を平和にする前にてめぇの睾丸が潰されるのを救ったほうが良い」と単刀直入に切って捨てた。
*2:彼(Bill Clinton)とバンドとは売名と言う意味で持ちつ持たれつだったと思う。
*3:この歌を歌った新人歌手さん(苗字すら覚えていない)は本作で日本レコード大賞新人賞を受賞。作詞はもちろん秋元康。この状況(というか構造)って、およそ15年が経過した今でも変わっていない気がする。少年犯罪よりも、自殺率の高さよりも、地方と中央の格差よりも、ニートの問題よりも、少子化よりも、「秋元氏の相変わらずのプレゼンスの高さ」にこの国の行く末に対する危機感を覚えざるを得ない。
*4:本作のコンテンツはwowowで放映されたものをビデオテープに録画してサルのように観続けたので"Numb"と"Angel of Harlem"の間に"Tryin' to Throw Your Arms Around the World"が収録されていないことがおかしいのにはすぐに気づいた。そしたらボーナストラックとしてN.Y.でのテイクが収録されているようだ。何が起きたのだ。あの曲の最中にBonoが引っ張りあげた女子(決して美女ではなかった)がゴネたのか。それとも、曲中でBonoが即興で商品名(handycam)を含めて歌っちゃったからなのか。そこだけが本作にまつわる唯一の不満。