POP(U2)
昨今話題の100万部作家リリー・フランキー氏の作品が定期的に楽しめる媒体の一つに『クロスビート』という音楽雑誌があります。多かれ少なかれ全体主義的な本命雑誌"Rockin'某"と比べると何かと長所の多い対抗雑誌だと思っているのですが、巻末に掲載されているリリー氏の洋楽風刺調の1コマ漫画も密かな楽しみの一つです。
本命雑誌"Rockin'某"の方で連載されていた和田ラジオ氏の作品での最高傑作が「ラーメン・レニクラ*1」だとすると、『クロスビート』誌でのリリー氏の連載の中での最高傑作は、本作1曲目のシングル"discotheque"のプロモーションビデオをネタにしたものだと思います。
件のプロモーションビデオとは、メンバーが仮想空間で、時に真面目に、時にフザケながら踊り演奏する、という文字通り安直なディスコ風の演出のものです。
その安直さをキッチュと取れるか取れないかで評価が分かれるところでしょうが、そのクライマックスには、U2のメンバー4人がVillage People*2のコスチュームを纏い「パラパラ」風に踊るという、合理性の欠片も感じられない無意味にアグレッシブなシーンが含まれています。リリー氏がネタにしたのもこのシーンでした。
1コマの枠内に、カメラの正面で一列に並んで踊る4人が描かれており、それぞれのメンバーに対してリリー氏のコメントが一言ずつ添付されております。
Adam Claytonさん(ベース担当)には一言「お仕事」とあります。
U2の堅実なリズム隊の一翼を堅実に担うClaytonさんのことですから、カモメの水兵さんのような服を着せられることになっても、それがたとえ思い付き的な演出であったにしても、あくまでも仕事は仕事。淡々と実直に踊ってらっしゃいます。*3
続いてLarry Mullen Jr.さん(ドラムス担当)には、一言「嫌々」とあります。
しばしばチラチラと横目で他のメンバーを見ているMullen Jr.さんがかなり強烈な羞恥心に苛まれていることに間違いはないようです。カウボーイ風の格好をさせれられているだけでも本人的には十分に嫌なのでしょうが、逆に言えば、「他の三人の格好よりマシなものを選んでいる」そのこと自体、彼が嫌々この仕事をやっていることを想起させるのに十分な材料だと言えます。
他の三人が思いっきり腕を振って踊っているのに、この人だけは一貫してやる気ゼロ。居の一番にフレームアウトするのはMullen Jr.さんです。彼の口元に時折見え隠れする微笑は、照れ笑いではなく自分を嘲笑してその場をなんとか凌ごうという、これ以上ない「嫌々」感が込められたものに感じます。
そしてBonoさん(ヴォーカル担当)。ノーベル平和賞にノミネートとの話もまことしやかに囁かれるほどのポリティシャンとしての能力と情熱は類稀です。もはや一介のセレブリティ以上の存在となった感がありますので、数々の取り付くシマもない突っ込み*4を受けているのはご愛嬌でしょうが、このビデオでもリリー氏が一言「ノリノリ」と評するような無邪気さで思いっきり腰を振っております。
ステージから電話でピザを2万枚注文するこの方のことですから、そんな無邪気さを装うぐらいのことは屁を放るぐらいに容易いことでしょう。
さて、オチです。The Edgeさん(ギタリスト)。問題のラストシーンに至る前から、口内スプレーを噴射する姿を晒したり、「ずいずいずっころばし」風なダンスを披露して周囲を頷かせたりで、どう考えてもノリノリ以上。黒革のボンテージ衣装の隙間から胸毛を惜しげもなく露出させて踊るラストシーンの彼を評して、一言「本気(マジ)」と断じたリリー氏の感性には感服いたしました。
The Edgeさん、真意なのか、偶々なのか、芸名が表している通り、かなりギリギリな方とお見受けいたしました。ちょっと前までは貧農のような格好していたのに…
こんなところで「2学期デビュー」を見るとは思いもしませんでした。
…というわけで、ちょいとはしゃぎ過ぎた感もあるかもしれない本作。駄作としてお捉えの方も多い様子です。が、私個人としては、一皮剥けばなんてこたぁない、普段通りのU2の良質な音楽だと思っています。
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*1:Lenny Kravitzが店主のラーメン屋で「髪の毛が入っている」とクレームが付くネタ。客のドンブリからはみ出した1本の極太ドレッドが忘れられない。
*2:西城秀樹がカバーした青春歌謡ポップ"Y.M.C.A"のオリジネイターとして有名なポップグループ。他にも"Go West"などの有名ディスコソングを発表した偉大な存在。ゲイであることを隠さずに活動した史上初のポップグループであると言われているが、Freddie Mercuryとの兼ね合いは微妙なところだと思う。
*3:歯を食いしばっているように見えるのは気のせいだろう。
*4:「世界を平和にする前に、(ピチピチのズボンで)自分の睾丸を潰すのを止めろ」という類のもの。言うまでも無くJohn Rydon氏による発言。