Saudades de Rock(Extreme)

サウダージという単語はボサノバでよく聞かれますね。英語に翻訳したら"Longing"と出ました。「待ち焦がれる」という感じでしょうか。

本来ポルトガル語の"saudades"には、失われたものへの想い、追慕、郷愁というようなニュアンスが含まれているそうですので、"Saudades de Rock"を敢えて日本語に訳すと「ロック慕情」とでもなるのでしょうか*1


そもそも、ROCKって何ぞ哉という疑問もあります。

バンドをやってると言うと必ずと言っていいほど「どんな音楽やってるんですか?」と聞かれます。そんなとき自分は胸を張って「ロックをやっています」と答えることにしているのですが、結果として大抵の場合は微妙な雰囲気が漂います。

今日日(きょうび)、「スカやってます」とか「ジャイブやってます」とか言った方が却って通りが良い感すらあります。

"ROCK"と聞いて、人は何故戸惑うのでしょう。

率直に言えば何ともダサいからではないかと思うのです。


本作、冒頭から恥ずかしげもなく、三声がアカペラで和音を奏でております。Queenの匂いがプンプンします。

続いて伴奏が入る。このリズムは・・・どこかで聴いたような・・・やはり強烈にQueen*2

これはもう「包み隠さず」という佇まいではありません。むしろ、露出狂系の佇まい。


本気か嘘か「ありとあらゆるリフはJimmy Pageが書いてしまったので何にも残っちゃいない」と嘆いたNuno Bettencourtさんは結局は相も変わらずリフを刻み*3、Gary Cheroneさんは相も変わらずダサい詩を乗せ歌い、皆さんがお決まりのコーラスを重ねる。いつものExtremeの雰囲気が満載です。


特筆すべきバラードの臭さも相変わらずです。

リリース前から一部ファンの間では「名曲」との評価が聞かれた"Ghost"の冒頭はGary Cheroneさんのヴォーカルの臭みが最高潮に達する部分でしょう*4。ピアノのイントロも途中から入るストリングスも眉を顰めざるを得ないアレンジが徹底されております。

この人達は何にも変わっちゃいないのでした。


このExtremeというバンドが今回再結成する前にリリースした前作は異常な名盤であったわけですが、あれは煮詰まったバンドの自棄っぱちが引き起こした奇跡だったようです。

本作からは、むしろそれより前の作品群(1作目〜3作目)の持った雰囲気がより強く感じられます。それは冒頭に述べた"ROCK"の本来的なダサさに他なりません。


「自分たちがどれだけクサいかわかってない」


というミもフタも無い評価で時代のカリスマKurt Cobainさんに切り捨てられたExtreme。

当時の彼らがそんな評価を受け止め理解できていたかも分かりませんし、今日に至っても覚束ないわけですが、ダサい"ROCK"がいつの間にやら身の回りから失われていること*5にふと気づいた上で考えると、ダサくて恥ずかしいROCKが確かに詰まった本作は、愛おしいとすら言えるかもしれません。


それは、一言で表すと、「ロック慕情」なのでありましょう。


Saudades De Rock

Saudades De Rock

*1:スナックのカラオケで歌われる変り種の歌謡曲のタイトルのようになってしまった。あるいは「『王様』のニューシングル」といった趣。

*2:"Tie Your Mother Down"ですな。

*3:Rage Against The MachineのTom Morrenoさんは否定しがたいBettencourtさんからの影響を照れつつ苦笑いで認めていた。RATMとExtremeとに対する世間的な評価の格差に鑑みるに、バンドの評価はフロントマン(歌い手)と歌(歌われる詩)が最終的に決めるということを痛感せずには居られない。Morrenoさん、ただのハーヴァード卒ではない。正直者と見た。

*4:薄ら寒い裏声で「怖がる必要なんてないんだ、と言ってくれ」と歌われる。たとえばKurt Cobainさん、たとえばVan Morrisonさん、たとえばLou Reedさん、たとえば湘南乃風さんがまったく同じことを歌っていたら、全く異なる印象を受けていたことと思う。不条理なものだ。

*5:考えてもみて欲しい。仮にFreddie Mercuryが生きていたとしても、その後の世界に受け入れられていたかどうかを。