大発見 Discovery(東京事変)


ご無沙汰しております。更新をネグり倒しまして面目ございません。結局のところ過去に書いたものの転載もまだ済んでおりません。

一方で、これまで書き連ねてきたことの原材料になってきた、ふとした刹那に思いついたような事柄はtwitterで日常的に吐き出しているので*1、わざわざ此処で書き連ねることも多くは発生しないようです。


そうは言っても、書きかけのネタは幾つかあると言えばあるのです*2。本日は折角なのでその中から最近作を鮮度の落ちない内にご紹介しようと思い立ちました。



大発見

大発見



椎名林檎女史率いる敏腕集団の新作であるところの本作。

全編を通して聴いてみると、もはや「同じバンドが演奏している」とは思い難いものがあります。ワタクシのような雑魚がゴチャゴチャ知った口をきくよりもYoutubeででもAmazonででもご試聴頂くのが早いかと思いますが、兎にも角にも四方八方に枝分かれした楽曲群がどれもこれも骨太な様は、まるでメコン大河下流のデルタ地帯のような佇まいであります。


思えば、このバンドの前々作は『娯楽 Variety』と題されておりましたが、むしろ本作こそがそう題されるべきだったのではないか、と思われます。正面切ってそう題しても全く恥じるところのないヴァラエティに富んだ娯楽的作品となっているからです。

ついでながら、あの『娯楽 Variety』の方こそ、本作のタイトル『大発見 Discovery』が似合う一作だったのではなかろうか、なんてことも思います。何と言っても、それまでメインソングライターの座に君臨し続けてきた椎名女史を差し置いて二人の新しい作家*3が世間に認知される契機となった作品だったのですから。当作品は、個人的には何にも優る「大発見」フィーリングを与えられた作品で、『娯楽』どころのレベルではなかった訳です*4


あまり抽象的な事ばかりを書き連ねたんじゃ、駄文どころか毀誉も褒貶も無い気もしますので、個別の曲について感じた具体的な点を少々。


まずは個人的ベストトラック『海底に巣くう男』について。

このバンドがこれまでに発表してきた楽曲群の中でも"BB.Queen*5"をフェイヴァリットと据える者としては、脱力敏腕ギタリスト浮雲のペンによる『海底に巣くう男』がピンと来るのは、もはや必定と言っても過言ではないでしょう。

アフリカンビートで始まり、ビッグバンドで終わる*6この緻密なアルバムの中盤に、ここまでマーケットに歩み寄らない、誤解を恐れずに言うと「人を小バカにする」ようなテイスト*7の歌が入っていることは素晴らしい。これは作者も編者も勇気を要する仕事だと思います。

曲調も、単純にグリッターなグラムロックというだけではありません。AメロとサビをつなげるBメロ(?)のポップな展開をWurlitzer*8が彩るあのカタルシスと言い、変態的なソロプレイが続くままフェイドアウトで終わるその編集と言い、プロ集団が至って本気でチャーミングなプレイに徹しております。

「海底に巣くう」というタイトルが何を意味しているのかはサウンドに耳を傾け、歌詞を読んで邪推するしかありません。兎にも角にも海底に巣くっているからには、食事の為だろうが、産卵の為だろうが水面まで上がってくることはしないわけで、リスナーそっちのけで暗い水底に巣くう結果と終わってもネバーマインド、という思い切りの良さが感じられる楽曲となっている、とお見受け致しました。


他にも、当代の流行なのか何なのか、底はかと無い90年代テイストが薫る『空が鳴っている』、『禁じられた遊び』、『風に肖って行け』*9、先行してリリースされたバージョンよりも更にシンプルなアレンジの中で奏者が遊ぶ様が楽しめる『天国へようこそ』、『ドーパミント!』と、やはり"variety"に富んだ『娯楽』的な一枚であるとの思いを強くするばかりなのです。

*1:少なくともワタクシに関しては主張したいことがさして複雑ではないので140文字もあれば十分に収納されてしまう。

*2:…にしても、山城新伍の著書だったりタイ料理のレシピ本だったりするのだが。

*3:それぞれに活躍の実績はあったので厳密には「新しい」とは言えないかもしれないが、その活躍のフィールドと商品はマスマーケットでの取引の対象ではなかったので実質的には「新しい」と言っても語弊はないと思う。

*4:…だなんて事をシレっと書いちゃいるが、当時は当時で「『娯楽』。けだし名タイトル。」だなんてことを平気で書いていたチャランポランな人間が本ブログの筆者であることをこの際に再確認頂きたい。

*5:グヤトーンのギターを持ち出し、その独特なコシのないサウンドでプヒプヒと歌わせている素晴らしいグラムロック

*6:実はボーナストラックとして既発表曲が最後に収録されている。これは頂けない。要らない。"Rock'n'Roll Suicide"の後に脳天気に始まる"John, I'm Only Dancing"に比類するほどに要らない。理解に苦しむ。増して、ボーナスだなんて形にするのは責任を回避しているようにも思える。ボーナスだとかオマケだとかって名目で提供されるものに限って、別の目的が隠れていたり、単にありがた迷惑だったりするなことが多いと思う。

*7:「このフザけたギターを皆が然も有り難がって拝聴してるのかと思うと笑える」とは嫁の一言。この発言は本質的には褒め言葉である。手前味噌ではあるが、なかなかマトモなセンスをしている。

*8:この鍵盤のサウンドの歪みっぷりに、これはWurlitzerではなくClavinetかもしれないとも思ったが、ここはきちんとWurlitzer最高!と断言しなければWurlitzer好きが聞いて呆れる・・・ような強迫観念に苛まれる。

*9:異論はあろうが、『禁じられた遊び』はL'Arc-en-Cielの、『風に肖って行け』はRadioheadの90年代を彷彿とさせるように感じられた。タイアップ曲でシングル曲として先行してリリースされた『空が鳴っている』も最初に聴いた時に、得も言われぬ懐かしさを感じたことが個人的には印象的だった。