American V: A Hundred Highways(Johnny Cash)

U2の曲で客演しているイメージだけしか持っていなかった頃に比べると、このJohnny Cashという人の音楽の魅力に大分開眼したような気がします。

彼の音楽はいわゆるカントリーミュージックにカテゴライズされておりますが、一般的なカントリーをあれこれと聴くようになったので彼の音楽の独特たるところがよく分かるようになったのです。


酒浸りになるわ、クスリ漬けになるわで、アウトローの矜持もここに極まったかとも言うべき刑務所でのライブ作品が象徴的なCashさん。Elvis Presleyと並んで写っている写真がよく見られますが、Elvisが表ならCashは裏、Elvisが陽ならCashは陰と言えましょう。

そんな典型的なイメージに囚われているからこそ余計にそう思われるのかもしれませんが、彼の最晩年の作品の一つである本作でのCashさんの歌の優しく儚い趣には心が動かされます。


冒頭を飾るのはLarry Gatlinをオリジナルとする一曲"Help Me"です。

原曲は、正直言って、「これを薄気味悪いキリスト教原理主義的白人ソングと言わずして何と言おうか」とも言うべき薄ら寒さに満ち満ちております。

が、Johnny Cashが「助けなんて要らない、一人でやれると思っていた。だけどもう一人じゃ耐えられない」と必死に救いを乞う、その在られもない姿からは、むしろ敬虔な気持ちが伝わる気がするのですから不思議なものです。

ありとあらゆる悪癖を重ね苦しみ、ようやく得た伴侶June Carter Cashにも先立たれ、身体的にも精神的にもかなり衰弱したというJohnny Cashが、亡くなるわずか数ヶ月前に、最後の生の拠り所として絞り出した歌唱によるものなのですから、当たり前と言えば当たり前なのですが。


題材のバタ臭さと小綺麗なアレンジについては、生来の天の邪鬼の自分には受け入れがたい部分があるのもまた確かではあります。しかしながら、冒頭の"Help Me"から最後の"I'm Free from the Chain Gang Now"に至るまで、一聴の価値は十分にあると思います。


Vol. 5-American: a Hundred Highways

Vol. 5-American: a Hundred Highways