Before the Frost(The Black Crowes)

本作、特に期待することなく聴いてみたところ、正に徹頭徹尾、レイドバックしていながらもテンションの張りつめた、熱くてクールな名演奏が楽しめる作品となっておりました。

地味ながらも最高傑作なのではないかとすら思えるこの素晴らしい作品に出会い、 このバンドがここに来て第2の黄金期*1を迎えているとすらワタクシは思いました。


一曲演奏される度に、録音の場に立ち会った幸運なオーディエンス達の歓声が上がります。そう。この演奏精度にしてライブ録音なのであります*2

演奏が上手な皆さんであることは分かっちゃいましたが、この力の抜け具合、そして「押すところは押し 引くところは引く」メリハリの心得は、遂に極まった感があります。


そして絶妙なミックス。ミックスってそんなに簡単にできるもんなんでしょうか?ワタクシには知る由もございませんが、メンバーひとりひとりの音や声が、時に立ち、時に混ざる、その様はまるで魔法のようです。


コクがあるのにキレがある(なんて便利で安易なフレーズ)絶妙なスライドギターを全編に渡って繰り出すLuther Dickinsonさん*3。前作から活躍しておりましたが、よりいっそうバンドに馴染んで、いよいよ獅子奮迅の活躍を見せつつあります。


強いて1曲ハイライトを挙げるならば、カントリー・ロック・フィーリングの薫り高い"Train Still Makes a Lonely Noise"ですかね。

楽器の音が素晴らしいのです*4

Before the Frost...

Before the Frost...

*1:思えばMark Ford在籍時から此処に来るまで、実に実に長かった。

*2:しかも録音場所はWoodstockにあるLevon Helm(ex The Band)所有のスタジオ。パーフェクト。

*3:Jim Dickinsonの息子さん。サラブレッドでスライドギターの名手という全く同じような境遇にあるDerek Trucksさんと比較すると、個人的にはLutherさんに軍配を挙げずには居られないのは、水商売的な場末感を濃厚に湛えている様に強いシンパシーを覚えるからだと思う。なお、LutherさんがJon Spencerさんと組んで出したアルバムは現在、Amazonで1円で叩き売られている。ここ数年のJon Spencerのクスブリ状態はどうにも切ない。

*4:先だって或るギターを購入した。悲惨な改造が施されていることからレス・ポール・ミゼラブルと命名したこのギターには、実は、それだけで元が取れてお釣りが来るようなマイク(PAF)が搭載されていることが後に分かった。このボロボロに実をやつしたギターの70年代初期の素晴らしいボディとネックとマイクとが発するサウンドは、すべての悲しみと諦めの果てに漂い辿り着いた孤独の荒野のような音だった。それはまるでこの曲で聴かれるギターのような音なのだ。