What's Going On?(Marvin Gaye)
『どーなってるの?』って番組ありますよね。
気味の悪い俳優達*1のスキットに、嫁やら舅やら婿やら姑やらの愚痴が随時挿入されるあの下世話な番組。
そう。不法投棄廃棄物の掃溜のようなあの番組です。
「(こんな番組が真昼間から全国ネットで放映されるこの国は)どーなってるの?」
と、むしろこちらから問いたくもなる無限ループのような番組をダラダラと観ている(と推定される)主婦の皆さんやニートの皆さんは、今その瞬間も刻一刻と自分達の脳みその腐敗が進行していることにさっさと気づいて頂きたい、とこの国の将来についての杞憂と義憤の一つや二つでも勝手に覚えざるを得ない番組でした。
・・・と、行きがかり上、強引に憤ってみましたが、本日のお題との本義的な脈略はございません。本日は先だって観た「どーなってるの?」が余りにも感動的で感動した、ということが申したくて、このMarvin Gaye大先生の大名作に託つけてみたわけです。
「観た」と申しても、件のテレビ番組ではございません。下北沢のライブハウスで催された、とあるイベントのことです*2。
このイベント、長岡亮介さんというギタリストと彼のバンドPetrolzの主催するイベントだったのですが、この長岡さんというギタリストに私、もう、完全に夢中です。
こんな感覚は滅多に味わえるものではございません。以前に最近グっと来ない、というようなことを書いたこともありましたが、今回は来てます。それはもうググッと胸に。
そんなものなのです。もうソワソワします。まるで恋のようです。自分を偽らずにじっと待っていると珠には良いこともあるものなのです。
某有名女性歌手が歌うバンド「東京事変」に2代目ギタリストとして加入した彼の井出達は最初から飄々としておりました。Vox型の変形ギターをぶら下げている様は敢えて手を抜いているような、そんな不遜な印象さえ覚えたものです。
が、音は嘘を申しません。リリースされたアルバムで彼の演奏を聴いて完全にブッ飛ばされました。変幻自在。ニューギターヒーロー。もう、もう、ただ、ただ吃驚。そして服従に至ったわけです。
更に惚れぬいたのが、そのバンドのライブDVDでの彼の立ち居振る舞いです。
もはや漫画に出てくる武道の達人のようでした。隙だらけでありながら無駄な動きが一切ナシ。ワウペダルの操り方一つにうっとりしてしまう有様ですので、もう何の照れも衒いもなく憧れとシンパシーを曝け出しましょう。ええ、喜んで。
で、もう一つおまけに惚れたのは、ご自分の立ち居地をきちんと自覚してらっしゃることです。
何ゆえ彼のギターがそれほどまでに気になるのか、何ゆえ彼のギターにそこまで惹かれるのかを考えてみると、そもそも彼のようなギタリストがこれまでだって好きだったこと(バックグラウンドとなっている音楽の種類は違えど)に気がつかされます。
条件1:珍妙なギミック的ギターリフが満載であること:
古くはJimmy Pageさんから、Nuno Bettencourtさん、田淵ひさ子さん、East Bay Rayさん、John Fruscianteさん、The Edgeさんと、ワタクシの敬愛してきたギタリストの皆さんには、妙に鋭いフックのある飛び道具的なフレーズを繰り出す人が多いようです。
長岡さんのギターもそう。東京事変の2枚目のアルバムを聴いていると、まったく飽きることがございません。耳が離せないからです。
最近、勢い余って、彼へのインタビュー記事が掲載されていた雑誌をヤフオクで調達して読んでみたところ、彼自身が自分の演奏のそういう様をよく自覚していることが分かりました。
曰く、自分のギターは「ちょっかい系」だと。その過不足が全くない表現に、もうワタクシの出る幕(というより隙間)は僅かばかりも残されてはいないことを思い知ったのでした。
条件2:歌重視であること:
あくまでも曲と歌にプライオリティが置かれている、ということです。
これはお決まりのテーゼでもありながらも非常に大切なことです。最近よく見かけるバンド漫画なんかでよく聞かれそうな説教臭くて嫌らしい文句でもあり、かつ本当に軽視されていることです。
それはとても簡単なようで難しいことのようにも思えます。
そもそも何をどうすればいいのか、セオリーも方程式もございません。ヴォーカリストが歌っている間はおとなしくしていて、ソロ演奏だけ暴れると良いというわけではありません。然らば、何もしないで立っていれば良いか、というと、そうでもない。
歌い手の伴奏の一部として自分のギターを如何に活かすか、ということを考えると、手段だけはそれこそ山ほどあります。付く、離れる。或る時は薄くクリーンに。また或る時は厚くダーティに。突破力も、忍耐も、バランスも、経験も、直感も、ひらめきも必要かもしれません。
ただ、その結果というのは非常に残酷なものです。アリかナシかだけ。彼のギターは大アリです。必要とあらばベースのルート音に沿ってパワーコードを引き続けるような中学生のようなことだって平気でやっちゃう様子です。
で、そのイベントについて、何処が如何に「どーなってるの?」 だったのかということを申しましょう。
1. まずはその出演者達の多様さに「どーなっているのだ・・・?」と漏らさざるを得ない。
昨今巷に溢れる、一目で目障りな「無国籍 何やクソ」風を吹かせただけのカストリ飲食店のような、カチンと来るほどに生半可な雑多さ*3ではありません。
多様さ、というより脈略のなさと言ったほうが正確かもしれません。
半端ではありませんでした。
前座でいきなり出てきた主役のPetrolzのお三方。アコースティックギター2本とスネア1個のシンプルな伴奏でそれぞれに歌ったのがDavid Bowie*4、Kate Bush*5、井上陽水*6。
続いて登場したのが、アングラ劇場型Vocalにアーバンな演奏が重なり着物ダンサーがリンゴを持って狂い踊るニューウェーブバンド。
これはなにやらアーバンなイベントなのかと思いきや、お次はカントリートリオ*7。
さらに続いたアコギを抱えた歌い手さんの曲がまた振幅が広い*8。
と思っていたらお次は「本物」のブルーグラスバンド。
ロマンスグレーのリーダーさんがステージに上がったときは「玉置宏にしちゃ背が高い」と思わされる始末*9でしたが、このバンドはおそらく百戦錬磨のベテラン方の巣窟のようなバンドなのでしょう。「モニターの音が足らねぇ(音を上げろ)」と天井を指しまくるドブロ担当の御仁の睨みには、客の僕がチビりそうになったのですから、PAのお姉さんは生きた心地がしなかったでしょう*10。
2. またこのイベントの形態がまた「どーなってるの?」どころの騒ぎではない。
イベントですから、まぁ色んなバンドが出てくるわけですが、主役中の主役、長岡氏は出ずっぱりですよ。出ずっぱり。
もはや、一人The Band in Last Waltz状態*11でありました。
そもそも「出演者が多様。と言うより脈略がない」と申しました。
確かに多様ではあったのですが、実は脈略はあったのです。「ギター:長岡」っていう脈略が。
この際なので、もう、至極勝手な感想として申し上げます。
このイベントは長岡亮介さんの「今後、アクセルを床までベタ踏みにして激走するので、よろしく」という所信表明だったのではなかったでしょうか。
それまでの経緯は存じ上げませんが、その新たな門出に当たって、自分の音楽演奏キャリアの原点から現在地に至るまでの全てを濃縮した形で一晩のステージで見事に曝け出したギタリスト長岡亮介は、誠実で、人に好かれ、そして何にも優先することに希有なまでに才能溢れる音楽家なのだ、と強く感じた忘れられない晩となりました。
で、「どーなってるの?」って話ですが、このイベントのアンコールがまた「どーなってるの?」でした。
3. (アンコール1):"(I Can’t Get No) Satisfaction"
The Rolling Stonesの名曲ですが、この曲をアンコールにピックアップするのは自分たちに相当の自信がないと難しいはずです。シンプルだから。
プロの皆様を相手にまったく失礼な物言いではありますが、実際にゲストの面々も出揃って歌い、演奏する中でも、
「どうなっとるんじゃ?(誰がどうやって収集つけんだよ?)」
…的な雰囲気が濃厚に漂っており、正にセメントマッチの様相を呈しておりました*12。
4. (アンコール2):"What’s Going on?"
「どーなってるの?」。
ここまで来ると、もう、そのまんまです。
「海底摸月(ハイテイツモ)」ということでしょうか*13。
ゲストの椎名順平さんは、もはや十八番とすら言えるのではないかと思われるネタを得て、アンコール1曲目のときと比べると、文字通り「水を得た魚」のような趣で歌っておられました。
一方、事ココに至ってステージに引っ張り出された「アングラ劇場型バンド」のヴォーカルのあの御仁。
その不安な面持ちは、仮に「陸に上がった河童」が居るならばその面持ちは正しくあのようなものであろう、という状態。
持ち前の即応能力で担当パートを乗り切り難無きを得たかと思われたのも束の間、大団円につながるブレークと締めのシャウトを瞬間的に振られてしまいました*14。
「どうなっとるんじゃ?」と言うよりは「どうなってしまうんだ?」という無数の「?」が観客の脳裏に色濃く投影されたあの瞬間、ワタクシ、彼の表情に名画ポリスアカデミーのキャラクターを見いだしました*15。
そして、このイベントに来て本当に良かったと思ったのでありました。
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*1:彼らの顔がたまに浮かんでは脳裏から離れなくなる。みなさんイイ仕事をされていたということか。好ましいか否かは別として。
*3:昨今、多様性とか個性というような言葉の使われ方が欺瞞的過ぎやしないか、と思って10年ほどが経つ。
*4:ちなみに"Ziggy Stardust"。それもSeu Jorgeバージョン。ポルトガル語。スキャットまで同じだった。
*5:Kate Bushの曲ではあったがネタ元はMaxwell。本格的なファルセットを繰る歌い手(本職はドラマー)の目論見(実はネタだったと見た)は、聴衆のクソ真面目な鑑賞態度(下手をすると浸ってすら居た)によって完膚無きまでに打ち砕かれてしまった。残酷な時間だったが、笑いを取るには彼は歌が上手過ぎたのだ。
*6:名曲"Tokyo"。この時点で「このイベントは間違いない」と強く確信した。「大瀧詠一?」と無邪気に尋ねたあの子供達は原典(『ハンサムボーイ』。1990年作品)のジャケットを目の当たりにして驚愕するのだろう。Petrolzの皆さんにはこれからもこうしてキッズ達を啓蒙して頂きたい。
*7:長岡氏がTelecasterのトーンベンダーをビシバシと(グニャグニャと?)操作する様は圧巻だったが、それを真似してニコニコしていたベーシストさんもまたスポンティニアスで素晴らしいプレイを繰り出しておられた。ちなみに楽器はdanelectroのLong Hornをご使用。完全に「分かって」らっしゃる。
*8:精子が卵子に向かって云々という曲説明はニート系ロックンローラー高橋敏幸を彷彿とさせたが(『精子と卵子と大宇宙』は名曲)曲調も生き方もマーケットも大分異なる模様。
*9:このお父さんのジョークがまたドッカンドッカン受けていた。言ってみれば「超アウェイ」でプレイするこのお父さん達を観客は心優しく見守った。いや、それどころかその演奏と歌声に圧倒さえされた。世代間のギャップは克服できる、いや始めからそんなものなど無いのかもしれない。
*10:この日の音響は良かったと思う。これほどまでに多様な出演者が乱れ出たステージの管理、セット転換も非常にテキパキと迅速に行われていた。思えばこの日はライブハウスの下北沢GARAGEの13周年記念のイベントでもあった。流石は老舗と言うべきか。
*11:マンドリンすら弾いていた。ついでながら触れるが、マンドリンをぶら下げるストラップがギターのストラップのデザインと統一されていることに感動を覚えた。特注か・・・。こういうところで色めき立っている自分に寺門ジモンのことを嘲笑する資格はない。
*12:別にリハ不足を誹っているわけではない。リハーサルすれば良くなるとも限らない、瞬発芸のようなこの曲をこの場に持ってきた長岡氏はきっと自分に厳しい人だろうと思う・・・他人にも厳しい気もするが。
*13:自分は、少なくとも気持ちは若いと実は真剣に思っているが、物事をマージャンで喩えてしまったその瞬間に非常に悲観的な気分に陥る。
*14:この瞬間、ケラケラ笑う長岡氏に、サディスティックな一面を垣間見た気がした。
*15:パンツを下ろして便器に座ったままスタジアムだかの大観衆のど真ん中に晒された、あのキャラクター(恥ずかしながらキャラクタ名を失念)。あのいじられ役のおいしさには今だに溜息をついてしまう。