Riot City Blues(Primal Scream)

評判は聞いておりましたが此処まで先祖帰りしているとは思いませんでした。

「ブギー病」っていう曲名はさすがに変更になったようですが、歌詞にはロックンロール・ドクターにロックンロール・ナースまで出てきます。「お注射お願い!おクスリ頂戴!」って調子でしょうか。


Bobbie Gillespieのイメージが突出しているからか、ナイーヴでアマチュア的なイメージが少なからずあるPrimal Screamですが、実のところは強烈に独特な専門能力を持った個々のメンバーが効率的な分業体制の下で辣腕を振るうプロ集団だと思います。


「週に2回か3回は泳ぎにいってるし…」


インタビューで、そう口を滑らすGillespieさんですが、


「この話、載っけんじゃねーぞ。ロックスターのクリーンな私生活、みたいな話、嫌いなんだよ」


とインタビュアーに告げます。「自嘲的でありながらも目が笑っていない」Gillespieさんは続けて、


「(ProducerのYouthの)ヨガについて話したことにも触れるんじゃない」


と口止め。 笑いながらその場を立ち去るGillespieさんの


「こちとら、毎日綱渡りしてるようなもんなんだ」


との一言がやけに象徴的でした。


そんなわけでPrimal Screamの皆さん。その趣は、もはやバンドというよりは、その時々で自分たちがどんな色に染まるかも自律的に戦略決定しているカンパニーという方が実態に近く、羊の皮をかぶった何とやらです。イメージ戦略も含めて大変なんだな、と詠嘆する次第です。

前作"Evil Heat"での、還暦も近いRobert Plantを引っ張り出してきて*1ハモニカ吹かせようってアイデアと、結局できあがったものが至極格好良いというバランス感覚は圧巻でした。勝ち逃げ上等、ヤリ逃げ上等、勝てる喧嘩しかしてこなかったように感じられるのも宜なる哉、でしょう。

「攻撃こそ最大の防御也」を地で行く、近年稀に見る品質管理の行き届いたバンドのことですから、ここに来てバンジョーマンドリンまでがチャラチャラ鳴っているような、ケルティックな装いすらまとったアルバムを発表したことにも「やってみたら楽しかった」的なノリ以上の意図を個人的には感じます。


そんな常勝軍団をコンダクトしているのは、時々のプロデューサーではなく、実の黒幕Andrew Innes*2だと常日頃から感じます。

まるでThe Bad SeedsにおけるMick Harveyの如きInnesさんがライブで若々しくも楽しげに演奏しているのを観たりすると、次のアルバムではまた何かまた、新しいこと*3を仕掛けてきそうな予感がするのです。


Kevin Shieldsがスピンアウト、「個人的な問題*4」でライブ活動から遠ざかっていたオリジナルメンバーのRobert Young氏に代わってBarrie Cadganが加入*5したりしているところなんざ、実に絶妙じゃありませんか。


Riot City Blues

Riot City Blues

*1:何せあのPage御大の相方なので、本人がしゃしゃり出てきてPrimal Scream側が断りきれなかった可能性も完全には否定できない。

*2:最近はバンドの宣伝活動に殆ど顔を出していないこともあり一時のBrian Wilsonめいた雰囲気まで漂いつつある。本作からの1枚目のシングル"Country Girl"ではテレキャスター、恐ろしいことにストラトキャスターまでを使用。個人的には、この人がぶら下げているギターを確かめるだけで心が萌えるような存在。

*3:厳密には一見すると新しそうなこと。

*4:十中八九はクスリの問題だろう。

*5:ライブ要員としての一時的な参加に限られる模様。