Sex & Religion（VAI）
90年代初頭のお話です。洋楽のプロモーションビデオクリップに天気予報を被せて垂れ流す、という妥協の産物的テレビ番組をたまに観てました。
私の記憶が正しければフジテレビで深夜（というより早朝）に放映されていたこの番組の曲のセレクションは、実に、それはもう実に渋く、他の専門チャンネルでも見ることの出来なかったであろう逸品が何故か放映されておりました。
Brian Mayのソロシングル"Resurrection"などは好例でしょう。この曲の映像は、言ってしまえば、合成された燃え盛る炎の映像の中でCozy Powellがドラムを叩いてBrian Mayがあの有名なセルフメイドのギターを弾いて歌ってるだけなわけでして、カラオケの付属映像かというレベルのものです。このとき以来二度と目にしたことはありません。しかもその画面の脇には「今日の最低気温」などが都市ごとに移り変わり表示されているわけですから、なかなかにシュールレアリスティックな体験でした。
…とまぁ完全に茶化してはおりますが、Freddie Mercury逝去のショック覚めやらぬ当時の私なんぞは、Brian復帰の狼煙を上げるこのシングルに本気で興奮してしまい、渋谷のレコード店*1で即購入したのも事実です。
そして、その天気予報番組でまたもや強烈なクリップが…。
ラーメンマンみたいな弁髪の西洋人がマイクに向かって「ワシャゴボ・ワシャゴボ」と吼えております。彼には迷いが感じられません。*2
その脇では如何にもウザったらしいロングコートを着て、ライトハンド奏法をキメにキメているギタリストが…Steve Vaiさんですな。*3
このビデオクリップが本作からのシングル１発目"Down Deep into the Pain"でした。
Steve Vaiさんは現在もギターヒーロー的アイコンとして君臨している模様ですが、Zappa人脈であることも手伝ってか一皮向けば単なる変人だと思います。
彼がタチが悪いのは生真面目な上にナルシスト的傾向があるところです。彼の変態性というのは大体の場合は「こんなエキセントリックなことやる俺ってカッコイイ」的なもので、要するに「変人気取り」で興醒めなことが少なくないのです。
この"Down Deep into the Pain"という曲のイントロやアウトロに夫人の出産時の声を挿入したり、歌詞カードの裏には蓮の葉の上でハラキリする坊さんの絵が書いてあったり。本人はいたって真面目にやってるのでしょうが、狙いどころが余りにも安直に感じます。アルバムのタイトル"Sex and Religion"も正直ショボイ。結局は「単なる悪趣味」といった後味しか残らないことも今となってはしばしばです。
そういう意味ではVaiさんが発掘してきたというヴォーカルの「ラーメンマン」も所詮はその程度の変人かと最初は思ってました。
彼の方は本物の変人でした。
彼らは演奏のために来日もしたので新宿は厚生年金会館に観に行ったのですが、件の「ラーメンマン」は冒頭から松葉杖をついておりました。ステージ上をのた打ち回る彼は挙句の果てにはギターの演奏が滅茶苦茶に上手い。「ラーメンマン」ことDevin Townsendさんのパフォーマンスのインパクトは終止徹底して強烈過。ハッキリ言ってVaiさんの存在が霞んでおりました。
本作のジャケットでは胸にブッツリと矢が刺さっているこのDevinさん、当時はまだ20歳そこそこだったとのことですが、どういう育ち方をしたら彼のような若者が育成されるのやら。
しかも彼のサイトで近況を見てみると見事なまでに禿げております。禿げてて長髪ってのは、以前ご紹介したFaith No Moreにかつて在籍していたJim Martin以来の快挙かと思います。
本作を気に入ってよく聴いていた高校生の頃、友人の小谷君が学校のお昼の放送で本作収録の"Pig"をかけたところ苦情が届いたそうですが、Vaiさんが色々と脚色した表層的な部分は別としてファンダメンタルな部分はポップでキャッチーな曲が多い作品だと思います。そこのところは流石は経験豊かな敏腕ミュージシャン3名（Steve VaiとベースのT.M.StevensとドラムのTerry Bozzio）が集まっているだけのことはあります。2005年も歳末に差し掛かった現在となると、この時代のこの手合いの音楽で普通にスルっと聴けちゃうものって実は殆ど無いと思うのですが、如何でしょうか。
一方でそんな百戦錬磨の3人と堂々と渡り合ったどころか食っちゃった感のある脅威の新人Devinさんは、当時から「本作以降はVaiさんと組むつもりは無い」と公言しておりました。ちょっと残念にも思ったものですが、今となっては「そりゃそうだろ」と思います。むしろ最初からVaiさんがビビっていた節すらありますが、Devinさんの近影*4 *5を仰ぐと、その判断は決してその後の二人を不幸にするものではなかったという気がします。
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