The Bad Lieutenant: Port of Call - New Orleans (Werner Herzog, Nicolas Cage)

自分の所為なのか、関わった人々のタチが悪かったのか。ともかく『バンコック・デンジャラス』でのピエロっぷりがあまりにも鮮やかだったニコラス・ケイジさん。

あのときの彼の全般的に浮かない表情が、いまだに記憶から消せずにおりましたが、ようやく、一つの映画によって上書くことが出来ました。


"Bad Lieutenant(バッド・ルーテナント)"。一時期にカルトムービーを愛好していた方ならばHarvey Keitel主演の原作品をご存知かもしれませんが、ここでご紹介するのはそのリメイク作品です。

リメイクとは言え、それらの2作品の共通点は主人公がジャンキーの汚職警官であることだけ。舞台も人もプロットも演出も異なるのですから、本作を「リメイク」と称するのは無理があるかもしれません。

自分で書いておいてなんですが、そんなことはともかくどうでもいいのです。本作、ハッキリ申し上げますが名作です。全く油断も隙もあったもんではありません。


『バンコック・デンジャラス』で「俳優ごっこ」に等しい羞恥プレイを強いられていたニックさんの本作での異常な輝きは一体なんなんでしょう。

助演のVal Kilmerも素晴らしい。タイソンみたいなルックスのラッパー扮するギャングも妙な味がある。キャスティングからして相当なやり手による仕事のようです。


突然に挿入される幻覚シーンも見事。

実際にラリったこともキメたこともございませんので、あれらのシーンのリアリティについてモノを申すことは出来ませんが、その鮮烈な演出効果に感心してしまいました。ともするとスタイリッシュですらあったので、その背景に移りこむ我らがニックさんがその場にもっとも馴染んでいない、いや、最早ニックさんが別人に観えるという効果すらもたらしておりました。爬虫類の使い方が巧いのです。


そしてプロット。

正直言ってどうというほどでもない気がするんです。ネタバレになるわけでもないんで言っちゃいますが、宗教との関連性は皆無だし、暴力シーンだって結果的には殆どナシ。それなのに何故こんなにヒリヒリするのやら。訳が分かりません。

舞台がカトリーナ直撃直後のニュー・オーリンズであることも一因かもしれません。どことなくヒリヒリしてる。ギャングの溜まり場の外では炭火でソーセージを焼いてるわ、捻じれるストーリーに絶妙のタイミングで覆い被さる脱力ブルースハープも、エンディングで静かに鳴っているリゾネーターギターのサウンドも、臭い立つ泥水の色も、どれもこれもディティールが追求されていながらにしてキャッチー。ドンピシャにスリリング。しかしながら監督は外国人なのです。それもドイツ人。訳が分かりません。

Nickさんが「思わず」といった体で吹き出すラストシーンにはもう脱帽です。訳が分からないことに変わりはありませんが。


いや、ホントにこんな映画、観る方はまだ賞賛すればいいだけなんで楽なもんですが、売る方は果たしてどうやって宣伝すればいいんでしょう?

宣伝ポスターはこの始末。本作を首都圏で上映しているのは恵比寿ガーデンシネマだけです。曲がりなりにもオサレタウンとされている恵比寿に出かけて、あのポスターでNickさんの顔を見かけて、この汚職警官映画を観てみよう、と思う人居ますかね?居ないでしょ。


それでいて、公式ウェブサイトの"INTRODUCTION"には「映画史に残る珠玉の一遍が誕生」と書いてあります。映画を観てなければ「手前味噌にも程があるだろう」と吹き出すところです。しかしながら、これ、実は大真面目なのです。


さて、ここまでは純然たる自分の感想を書き連ねて参りましたが、最後の最後でNickさん本人のこんな言葉を。


「観客に『あれは一体何だったんだ!?』と言われたい。そしてもう一度観に行ってほしいね」


本気でもう一度観にいってもいいと思ってました…降参。


バッド・ルーテナント [DVD]

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余談(個人的な思い出)ですが、この作品が上映されている恵比寿ガーデンシネマには、オープン初日初回の"Short Cuts"(Robert Altman)を観に行きました。

調べてみたところ、ガーデンプレイスの開業は1994年10月8日で15年前。すなわちワタクシ17歳の頃でありました*1

今回、久々に同館を訪れましたわけですが、あのときピカピカでスノッブだった映画館が様変わりしておりました。

座席はところどころ欠けて色が落ちている。ドリンクホルダーもナシ。スタイリッシュな映画しか取り扱わないイメージだったのに、ありとあらゆるチラシがスペースに溢れている*2

若かりし頃に淡い恋心を抱いた同級生が地方の温泉街でコンパニオンをやってるところを目撃してしまったかのような物悲しい出来事でありました。

*1:自分でも吐き気を催しそうな若さ。

*2:早稲田松竹のものまであった。知人は「ドラえもん」の映画のチラシを見かけたらしい。