Theremin(Steven M. Martin, Leon Theremin)
お盆休みももうお終い。
嗚呼また都心に人間が戻ってくるのか、とアンニュイな気分で冷房を強めたり、テレビのチャンネルをNHK教育に変えようとしたりしてた時のことでした。
滝口順平先生のあのハイトーンボイスが炸裂。今日もまた「ヲッホォー」とカマしてらっしゃる。
そう。『ぶらり途中下車の旅』です。
「旅人」は・・・勝野さんですね。山手線を旅してらっしゃるようですが、ヤケに渋い駅にて下車なさる。
それにしても大崎。
大崎だぞ、大崎。
大崎なんぞ、劇団四季の猫劇場以外になんかあるんかいな・・・ん?
ここは何だ?町工場か?
いや、寄り合っている人々が白衣を着ている。理化学工場か?
いや、よく見るとグランドピアノが奥にある。ありがちな新興劇団集団か?
いや、皆が手に手に何かを持っている。すわ宗教集団か?
いや、皆、聴診までぶら下げているではないか。果ては矢追系か?
彼らは一体?・・・と、ここまで来ると自分までもが無邪気に「旅人」化してしまっているわけですが、果たしてこの大崎の無機質な空間に並べられた椅子に腰掛けた白衣の集団はテルミン*1という楽器の演奏集団でした。
「二チェボー」という名前の集団だそうです*2。
このテルミンという楽器の誕生とその歴史については、Wikipediaで調べるなり、Youtubeで演奏風景を探すなり*3、その発明者にまつわるドキュメンタリームービーである本作をご鑑賞頂くなりして頂きたいのですが*4、とにもかくにもこのニチェボーの皆さんとテルミン、いやマトリョミンは脱力感に似た不思議な魅力を備えております。
筐体がマトリョーシカであることにも、そのマトリョーシカがロシアの職人の手によるかなりの高級品であることにも、ついでに全員が白衣を着ていることに意味らしい意味がありません。
コンセプチュアルなだけで意味の無いものに目が無い自分は早速「手引きDVD」を購入してしまいました*5。手引いてもらうための「もの」が無いのに。
『ぶらり〜』収録当日は不在であったという主宰の方の代わりでしょうか、一人の女性がテルミンという楽器とニチェボーという集団の活動を説明しておりました。
彼女の説明がまた論理の贅肉を一切に省いた冷酷なまでにロジカル。そして暴力的なまでにサイエンティフィック。この集団の底力を感じた、と言ったら言い過ぎでしょうか。
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*1:厳密に言うと、マトリョミンという楽器。テルミンの機構がマトリョーシカの中に組み込まれているらしい。白衣とともに強烈なキャラクターを醸し出す聴診器は、実は機能面でも合奏時に自分のマトリョミンの発する音をモニターする役割を担っているんだそうな。新型にはヘッドフォン端子もついており「新幹線の中でも他のお客さんにあまり迷惑をかけません」との団体主宰自らのコメントが。「むしろ大迷惑であろう」という突っ込みをついつい入れてしまうが思うツボ。
*2:ロシア語で「気にしない」という意味だそうだ。タイ語で言うところの「マイペンライ」というやつなんだろうが、この場合2回繰り返されることも多いそうなのでむしろ「ドンマイ」に近いか。ロシアの草野球ではエラーしたショートに「ニチェボー、ニチェボー」と声をかけたりするのだろうか。
*3:ROCKやPOPの世界の皆さんにもテルミン・プレイヤーは居る。こんな傾奇者から、最近バカ売れしたR&Bの名曲をモノの見事にテルミンに唄わせる凄腕さん。特に有名なJimmy Pageさんにいたっては、思わず唸る[youtube.com/watch?v=wPkXx36ZZKI:title=本格的な真似っこさん]から、思わず力が抜ける脱力系の真似っこさんまでよりどりみどり。プレイヤーの皆さんにはむしろ静謐な武道家という佇まいが感じられる・・・ような気が一瞬するがそれは錯覚。仕組上、音程が狂ってしまわないように体が静止しがちなだけである。
*4:不躾にもぞんざいな扱いをしているが紛うことなき名作。本作に於いてテルミンの魅力について赤裸々なまでにフリーキーな雰囲気を湛えつつ語るThe Beach BoysのBrian Wilsonさんについては、拙稿「かわいそうなブライアン、非道なポール」にて触れた。
*5:その徹底的な無意味さは素晴らしくもはや感嘆に値する。しかし当然のことながら、二度、三度と楽しめるものではなく、ましてや噛めば噛むほど味が出る類のものではないということは大人のマナーとして心得ておかなければならない。うちの場合は弊バンド「エロひじき」の溜り場Oxi Studioさんに置かせてもらうこととした。が、Oxiのプレステでは再生できなかった・・・orz