銀幕演歌
その昔。まだ私のケツが青かった頃。私はカラオケというものを憎悪しておりました。
何はともあれ、自尊心にかけて、人前で熱唱するような真似ができてたまるか、と。
好きな曲であればあるほど、カラオケで歌っては汚されるような思いがしていました。
David Bowieの歌をカラオケで歌うことなど、当時の私にとっては切支丹にロザリオを踏みにじることを強要するようなもので、絶対的な禁忌でありました。
幸か不幸か少年は老い易く、青臭いテンションをいつまでも保っては居られません。要するに老けてタガが外れたのか、20歳を過ぎた辺りから、そこら辺がもうどうでも良くなってきました。
その後といったら、一頃の崇高な自尊心は何処へやら、昔の仲間とカラオケに行っては踊り狂い、先輩方とカラオケに行っては爆笑し、会社のボスがカラオケで歌うバブルガムブラザーズに感嘆する日々を重ねてきました。時の諸行とは斯くも恐ろしいものなのです。
かつての若き自分に教えを託することができるのであれば私は恐らく敢えて断言します。
「カラオケとは真剣勝負である」
と。
しかし、カラオケとは歌が上手ければ勝てるものでもなければ、歌を沢山知っていれば有能であるというものでもありません。
本作収録の梅宮辰夫『シンボルロック』は一見すると、カラオケで歌えばコールド勝ち必至の大量殺戮兵器並みの一曲に見えます。
しかし、ちょっと待ってください。この歌をカラオケで歌ったあなたに「勝ち」はありません。
オーディエンスにウケなかったとき。それはオーディエンスがドン引きしているときでしょう。そんな状態で
「頼むぜ?シンボルちゃん?」
などと歌い続けるのは拷問に近いと思われます*1 。
オーディエンスにバカウケだったとき。それは貴方がウケているのではありません。梅宮の辰っちゃんがウケているのです。
「その上こいつが、金を生ぅむ〜」
というリリックがウケればウケるほどに、貴方自身の存在を埋没させる諸刃の刃。それがこの『シンボルロック』です。
『シンボルロック』のみならず、本作に収録されているような過去の日本の歌謡界で伝説を残してきた数々の名曲の中には「反則顔負けの飛び道具」が多く含まれることを肝に銘じておかなければなりません*2 。
何はともあれ歌う。
人前で歌う。
自分で決めた歌を歌う。
その行為に、その人のそれまでの人生が如実に表出し、ややもするとその人の未来までもが透かし見える(かもしれない)。
このことを学ぶのに早いも遅くもありません。
皆さん、カラオケの勝者になろうではありませんか。
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