Guitarhythm 3(布袋 寅泰)

最初に購入した布袋氏の作品はライブ盤でしたが、"Guitarhythm"シリーズの1作目、2作目と順番にハマって、リアルタイムで初めて経験した氏の作品が同シリーズの3作目である本作でした。

氏は自らDJを勤めていたラジオ番組「ミュージックスクエア*1」にて、本作のリリースに少々先んじて2曲目の"Upside Down"をエアプレイしてくれました。このときは掛け値なしに興奮したのが思い出されます。

10曲目の"I'm Free"の後半部分での氏とChris Sppedingとのギターソロの掛け合いにはさらに強く強く興奮しました。当時はChris Speddingのことなどさっぱり知らなかったのはともかくとして、ギターを弾く道具としてのボトルネックのことも全く知りませんでしたので、Chrisさんとのギター録音風景を観たときは、何がおきているのかサッパリ分かりませんでした。が、手に汗握って、立ち上がって、鳥肌が立ったのは間違いありません。興奮にまつわる諸々のアクションのうちたいていのものは我が身に発生していたと思いますが、思えばあれは紛れも無く「初期衝動」というやつだったのでしょう*2

「初期衝動」ついでながら、本作の5曲目の"Diving with My Car"が、恥ずかしながらも私が初めてギターでコピーした曲です。コード(和音)がなんたるかを知る前からTAB譜とにらめっこしてこの曲のギターソロを弾いたものです。


本作リリース後、氏は自宅で転倒して小指を骨折、ツアーの日程が延期されるという事態も招きましたが、振替公演が横浜アリーナで行われました。実はこのコンサートこそ私が生まれて初めて体験したコンサートでありました。

新横浜の駅から歩いて横浜アリーナが見えたときに「あそこの建物の中に布袋が居る」ということだけで緊張と興奮を覚えたあの初々しさは、いまとなっては他人事のようですが、ともかくしっかりと記憶しています。

そんな初々しさは、氏の音楽を私に紹介してくれた同級生のヤマグチ君も一緒だったようです。あの頃我々は中学生でしたが、ふと彼から借りた教科書の或るページの片隅に


「アクセルはもうイカレているのさ」


と記されているではありませんか。前述の"Diving with My Car"の歌詞をシャーペンで記したのですね。

いまになって話すとお互いに何ともキマリの悪いエピソードではありますが、当時はむしろ強烈な連帯感すら感じたものです。要するに個人的な思い入れに関してはそれはもう満載なアルバムなのです。


一方でこのアルバムは、氏がまるで長渕氏や矢沢氏のようなアニキ風を吹かし始め、相田みつをの絵葉書のような歌詞を書くようになった分岐点でもあります。この辺りからロックンロールがどうのこうのだの、一回きりの人生なんだからどうのこうだのと説教臭くなっていった氏の言動に私の初恋気分は徐々に覚め、今となってはすっかり過去のものとなってしまいました。

『スリル』や『バンビーナ』というシングルを聴いた時は、心の葛藤を覚えつつも或る種の区切りを否めませんでした。「別れの時が来たのだ」と。その後、氏が江角マキコさんに曲を提供した上でプロデュースも行った"One Way Drive"を聴いたときには、心の底から思い切り笑えるようになっていました。


私は氏の敷いた大人への階段を登って来ただけだったのかもしれません。


GUITARHYTHM III

GUITARHYTHM III

*1:参照

*2:「筆おろし」でもいい。