系図(高田渡)
日本のフォークミュージックと書いて原義通り民謡と取られても困るのですが、いわゆる「フォーク」ってありますよね。
日本のフォークミュージックの先達や伝統からはどうしても、団塊の世代の暑苦しさや、左翼青年の理想の眩しさや、貧乏学生の卑屈さがみたいなものがあからさまに感じられて、のめりこむことがいまだに出来ません。
アプローチは対極的でありながら、二人とも実に厳格なリリシストだと思います。そうであるがゆえに、高田渡はだんだん自作の詩で唄わなくなってしまったのでしょうか。
高田渡が書く詩や選ぶ詩は、言葉に出来ない胸の内のモヤモヤを上手く言い表している気がします。
何か凄く真面目だったり、大事だったり、悲惨だったりということを何気なく、さっぱりと言葉にしてさっぱりと唄ってくれるので彼の唄は大変に重宝します。
引き合いに出したい曲はいくらでもあるのですが、『系図』というアルバムの『系図』という曲はタイトルの重さと中身の軽さと余韻の深さの組み合わさった珠玉の名曲だと思います。
こどもがこの世にやって来た夜
母親はめちゃくちゃにうれしがり
父親はうろたえて質屋に走り
それから酒屋をたたき起こした
この4行で充分に「家族」を語っていると思うのです。
実は先だって、或る自殺の話に直面してニヒリスティックな考えをどうしても捨てきれませんでした。それは悲しいことや理不尽なことに真正面から相対することを避けようとした結果だと思います。自己防衛といえば自己防衛ですが。
そんな折たまたまこの唄を聞いたら、まだ存命の彼のご両親のことを想像してしまい、泣けて泣けて、ついでに鼻血も出してしまい、阿鼻叫喚の呈で総武線から逃げるように降りました。
高田渡さんのご冥福を心よりお祈りします。
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