Burn It Down(Los Lobos)

2011年も暮れて年の瀬。Twitterでつぶやき始めた昨年からはこれまでにも増して停滞の一途をたどっていた本ブログの更新ですが、今年はなんと更新4回。

「今年の汚れ 今年のうちに」と申します。「汚れ」とは言わないまでも、今年のうちに心に去来し引っかかったままとなっている幾つかの凸凹を今年のうちに取りまとめ、卑しくも開陳させて頂いた上で新年を迎えたいと思いました。


年の瀬ともなるとありがちなのが1年の振り返り。ライブハウス"Billboard Tokyo"から送られてきたDMにも今年のライブの振り返り記事が掲載されておりました。

彬と志乃が常連だったりする一方で*1、「カジュアルシート」という名の下層カースト向けの席を提供する"Billboard Tokyo"。そのブッキングセンスも相まって*2、プレミアム系*3ライブハウスの中でも独特のポジションを確固たるものとしておりますが、Los Lobosが来たのは今年だったんですね。


観る前から良いと決まっているEast L.A.の帝王Los Lobosでありますが、実際に観てみると幾つもの発見がありました。

Telecasterを下っ腹の更に下にぶら下げて弾いてる巨漢(David Hidalgo)なんて、ミュージシャンというよりは町会長って言った方がしっくり来るような外見・・・





・・・なのですが、1曲目からテナーギターをバッキバッキに引き倒してました。チカーノなんだから歌は当然のごとく激烈に上手。アコーディオンも弾いちゃうんだから町会長どころじゃないわけです。


思えば以前に同じく"Billboard Tokyo"で観たMaria Muldaurさんは、曲の合間にPA担当者に向けて「途中で音いじるなやコラ」と怒りをぶつけていたのが印象的でしたが、今回は皆さん自分のアンプのセッティングも何もかもイジりまくり。

左利きの方のギターのヤーさん(Cesar Rosas)はモニターされてる自分のギターが聞こえなかったらしく・・・



"Turn it up. Don't be afraid"

「音上げな。(音の上がり方に不満げに)怖がらなくていいから・・・そうだそうだ(やればできんじゃねーか、と頷く)」



・・・と、PA担当者に目も合わせずにマイク越しで指示。

このオッサンはMCでも「日本の食い物最高」と素直すぎる感情をアピールしたり*4、曲の後に"Thank you music lovers!"とキメたりで改めて惚れさせて頂きました。


下民根性の染み付いたワタクシのことですので、この時もステージのほぼ真横から下に覗き込むような、いわゆる「カジュアルシート(下民席)」だったのですが、だからこその発見も色々とありました。両ギタリスト、特に「ヤーさん」の方は割と頻繁にペダルを踏んでおりまして、ギターを嗜むワタクシとしましては意外な発見だとほくそ笑んだり。

途中でギターからドラムに移ったオッサン(Louie P〓rez*5がステージ背後のカーテンの外を覗き込み東京の夜景に見とれてたのにはとりわけ笑いました。ドラムセットに戻ったサポートドラマーも全く同じようにカーテンの外を覗き込んで「おお!」と喜んでる始末で、キャラは全くブレず。「お前らは子供か」と。


一方で悲しい出来事も。

ああいう「プレミアム系ライブハウス」だと、演者と目が合わせ続けるようなステージ真ん前の砂かぶり的な席も用意されているわけですが、「空気を読む」ってことが「義務」としてDNAに書きこまれている日本人達は、外国からの「お客様」の気分を損ねることを極度に恐れるのか、「嬉しいこと」「盛り上がっている」ことを悲しくも無様に不慣れな動きや表情で「明示」せざるを得ないようです。それはもう、そこはかとなく、居た堪れませんでした。

とりわけ、アンコールの『ラ・バンバ』で総立ちになったときの予定調和感は悲惨なもので*6、下民用シートに居た幸運を嫁と分かち合いつつも、CDにサインして貰おうと待っている人々を尻目に会場を後にした次第でした*7


さて、それこそ予定調和的に総括致しましょう。

今年、あのLos Lobosを初めて生で観る機会を得て再認識したことがありました。彼らの魅力とは、青臭い表現になってしまいますが、作為的な感じが全くしないことにあるのかもしれません。Crazy Ken Bandから感じられる言い知れぬ違和感は「彼らがLos Lobosじゃないから」なのかもしれません。

会社員とかサラリーマンとかやってると、自分のロールモデル(要するに「なりたい人」)が居るかどうか云々ということを問われることがあり実にウザいのですが、強いて言うならばワタクシ、Los LobosのSaxのオッサン(Steve Berlin)みたいになりたいです。


・・・と、どうでもいいことを独り言ちつつ、2010年の作品ではありますが、今回の興行のきっかけとなった作品をご紹介して締めとさせて頂きます*8


Tin Can Trust

Tin Can Trust

*1:参照サイトはコチラ。「仕事が終わったらJBを聴いてきた」、「生で聴いて驚いたのはマーカス・ミラー」との志乃の発言は味わい深い。

*2:今年はHigh Llamasもここで観た。他にもIno Hidefumi、naomi & goro、Dirty Dozen Brass Band、果てはEdwyn Collinsを招聘するなど、いぶし銀の渋さを保ちつつも型にはまらないセンスを見せつけた。

*3:要するにチャージも酒もツマミも相対的に高額なところ。勝手にカテゴリー命名。"Blue Note Tokyo"を筆頭として"Cotton Club"、"Motion Blue"等を典型的な例として想定。

*4:他のメンバー(揃いもそろって巨漢ばかり)も「俺達もう腹減ってる!」とすかさず同意。「なのにまだこの後もう1ステージあんだよ・・・orz」的な雰囲気

*5:このオッサン、実はオリジナルドラマー。技術が足らなかったのか何なのか、太鼓はサポートメンバーに任せて呑気にアコギをかき鳴らしている事が多い。

*6:あれはバンドは悪くない。

*7:外人版「赤ひげ」といった佇まいのオッサン(白人。髭)が終始踊り狂ってた。そっちは完璧だった。団塊の世代が死滅した暁には我が国ももうちょっとマシになるかもしれない、いや、ましになっているように我々の世代がお荷物にならないようにしなくてはならん。

*8:1曲目から雷鳴轟くような激烈なギターソロが楽しめる。因みに弾いてるのは「町会長」。

The Way of The World(Mose Allison)

Bob Dylan選曲によるコンピレーション作品の第2弾"Theme Time Radio Hour: Season 2"にMose Alisonさんの曲が含まれていました。


Theme Time Radio Hour: Season 2

Theme Time Radio Hour: Season 2


"Young Man Blues"

そう。The Whoの永遠の名作"Live at The Leeds"に収録されていたあの曲です。


「おお。The Whoのあの曲をこういう形でカバーした人が居たのか・・・」ぐらいの気持ちで聞き流しておりました。果たして、逆でありました。Mose Alisonの曲をThe Whoがカバーしてたんですね・・・。ああ、恥ずかしい*1


そんな経緯でお名前を見知ったMose Alisonさん。

「十ン年振りの新譜!」だの何だのと、かなり局地的にではあるものの騒がれていたのが耳に入ったこともあり、気軽な気持ちで聴いてみた本作ですが、気がつかないうちに心を鷲掴みにされており、その虜となっておりました。その効用は止まるところを知らず、明けた本年2011年も随分と楽しませて頂きました。


洒脱に転がるピアノに合わせて、ユーモアに富んだ詩を歌う優しい歌声*2。それ以上に音楽に求めるものがありましょうか。


聴くところによると*3本作、全く乗り気ではない御大のもとにプロデューサーが通いつめ、説得に説得を重ねて制作に漕ぎ着けたそうです。

Joe Henryさん*4、あなたは偉い。


Mose Alisonさん、本作のリリースに合わせて来日する予定も組まれていたのですが、ご本人の体調不良によってキャンセルとなってしまったそうです。珠玉の演奏を生で味わう機会を逃したファンの皆さんはさぞかし残念に思われたでしょう。

ただ、御大、御年83(当時で)。たかが数回の演奏の為に遠い極東の島国にまでご足労頂くのは申し訳ありません。キャンセルで良かったんだと思います。そんなに聴きたいんなら、アメリカでもどこでも行きゃいいはずですから*5。ドルも安いんだし。


Way of the World (Dig)

Way of the World (Dig)

*1:甚だ小っ恥ずかしい勘違いではあるが、そういう間違いに限って少なからぬ快感を伴う。「なんと!」と思う。

*2:ピアノソロになると合わせてハミング、否、唸り声が聞こえる。Keith Jarrettや「炎のコバケン」を彷彿とさせる。恐らく全部まとめて録音する方法を敢えて選択したんだろう。名作とは得てしてこういう行間の質感が豊かなものだ。

*3:出典はコチラ

*4:T Born Burnett、Buddy Millerと並んで、ここ数年で頻繁に聞かれる名前。プロデューサーとしての仕事のみならず、彼本人の作品も素晴らしい。

*5:ウェブサイトの"Tour Date"を観ると、恐ろしいことに来年の12月の予定が既に入っている。